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名古屋地方裁判所 平成12年(ワ)154号 判決 2000年8月23日

原告

津村俊充

被告

杉原亨

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告に対し、八七八万二五七九円及びこれに対する平成一〇年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その四を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告に対し、一八六六万〇五六一円及びこれに対する平成一〇年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、左記二1の交通事故の発生を理由として、これにより死亡した訴外津村浩一(以下「被害者」という。)の子である原告が、被告らに対し自賠法三条又は不法行為に基づき、被告らの共同不法行為であるとして連帯して損害賠償を履行するよう請求した事案である。

二  争いのない事実等(括弧内に証拠を示した部分以外は争いがない。)

1  本件事故

(一) 日時 平成一〇年一一月五日午後四時二〇分ころ

(二) 場所 京都府相楽郡笠置町大字有市小字船頭二〇番地先道路上

(三) 加害車両一 被告杉原亨(以下「被告杉原」という。)運転の普通乗用自動車

(四) 加害車両二 被告前田博孝(以下「被告前田」という。)運転の事業用普通貨物自動車

(五) 被害車両 被害者運転の自家用普通貨物自動車

(六) 態様 右場所付近の道路(国道一六三号線)を直進していた加害車両一が、センターラインを超えて対向車線に進入したため、対向車線を進行中の被害車両の右側正面に衝突したところ、さらに被害車両に後続して進行していた加害車両二が追突し、被害車両は側溝に転落した。

2  被害者の死亡及び相続

(一) 被害者は、本件事故により挫滅症候群及びそれに基づく急性循環不全等の傷害を負って死亡した(甲四号証、乙イ一号証の1ないし3、なお、被告杉原との間においては争いがない。)。

(二) 原告は、被害者の子であり、被害者に生じた損害賠償請求権を相続により取得した(甲一号証の1ないし5)。

3  責任原因

(一) 被告杉原は、加害車両一を自己のために運行の用に供するものであるとともに、加害車両を運行するに際し、道路の中央より左側部分を通行すべき注意義務を怠った。

(二) 被告前田は加害車両二を自己のために運行の用に供するものである。

4  損害の填補

原告は自賠責保険から二五八七万四〇八六円(治療費相当額一〇九万八九三六円を含む。)の支払を受けた。

三  争点及び当事者の主張

1  被告前田の責任

(一) 同被告の主張

被告前田は適正な車間距離を保って運行しており、車間距離保持義務に違反していない。また、責任割合は、被告杉原に比して著しく低い。

(二) 原告の認否、反論

被告前田が適正な車間距離を保って運行していたとの主張は否認し、また、被告杉原に比して責任割合が著しく低いとの主張は民法七一九条により失当である。

2  原告に生じた損害額

(一) 被告杉原の主張

被害者は年金以外に収入がなく、その受給額の大半を生活費として費消していたと考えられるから、逸失利益の算定にあたり、生活費控除率は八割を下らない。

(二) 原告の認否、反論

右主張は否認する。被害者の生活状況からして、生活費控除率は五割が相当である。

第三争点に対する判断

一  争点1(責任原因)について

1  乙イ一号証の1、4、6、7、9、乙ロ一号証及び弁論の全趣旨によれば、被告前田は本件事故場所に至る相当手前から被害車両に追走していたこと、その間の速度は時速五〇ないし六〇キロメートルであったこと、車間距離は四メートル程度で、同被告は車間距離が不十分であるとの認識を持ちながら走行していたこと、加害車両一と被害車両の衝突後、ほとんど間をおかずに加害車両二が被害車両に追突していること、加害車両二のスリップ痕は印象されていないこと、以上の事実を認めることができ、これを左右するに足りる証拠はない。

2  右に認定した事実からすると、被告前田は適正な車間距離を保たずに運行しており、車間距離保持義務に違反しており、それがために追突したことは明らかである。

そして、争いのない事実等と右認定事実からすると、被告杉原及び被告前田のいずれにも過失があり、かつ、両者の行為は時間的場所的に近接し、客観的に関連共同しているというべきであるから、両被告は共同不法行為の関係に立つものである。

3  被告前田は、被告杉原に比して責任割合が著しく低いと主張するが、前記のとおり、原告の損害は被告杉原と被告前田の共同不法行為によって生じたものと認められ、民法七一九条一項により、被告前田は被告杉原と連帯して損害賠償の責に任じることになるから、本件においては主張自体失当である(共同不法行為者間の求償の問題である。)。

二  争点2(損害額)について

1  認定した基礎事実

甲一〇、一二号証、一四ないし一七号証、二〇、二一号証及び原告本人によれば、被害者は、昭和三年三月九日生まれの男子で、元小学校教師であったが、昭和六〇年に退職し、本件事故当時は七〇歳で、公立学校共済組合から年額三三一万三七〇〇円の退職年金を支給されていたこと、また、被害者は、平成九年に配偶者と死別しているが、それ以前から唯一の子である原告及びその家族と同居し、毎月一〇万円を渡して衣食住の身の回りの世話を受けていたこと、そして、被害車両を所有し、「国際ボランティア貯金ラリー」に参加して全国の郵便局に出向くことを趣味としていたこと(本件事故は、その際に遭遇したものである。)、被害者は本件事故の約一か月前に被害車両のタイヤ交換をし、一万六〇〇〇円の代金を支出したほか、右一〇万円とは別に自分のために毎月相当額の出費をしていること、以上の事実が認められ、被害者はこれらの生活費の合計として右年金の七割程度(月額二〇万円弱)を費消していたと推認される。

2  認定額

(一) 逸失利益(請求額一四六八万四六六一円) 一一七四万七七二九円

右1に認定した事実によれば、被害者は、事故後平均余命期間である一二年間は年額三三一万三七〇〇円の退職年金を収入として得ることができたものと推認することができ、右期間の生活費としては、前記事故当時の生活費を基準としつつ、加齢と共にある程度これが減少してゆくことが考えられるから、この点も考慮すると右収入の六割を控除するのが相当であり、右逸失利益の現価を計算すると、適用すべきライプニッツ係数は一二年の係数となるので、次の計算式のとおり、右金額となる。

3,313,700×(1-0.6)×8.863=11,747,729

(二) 慰藉料(請求額二二〇〇万円) 二〇〇〇万〇〇〇〇円

右1に認定した被害者の年齢、生活状況、本件事故態様等、本件における一切の事情を斟酌すれば、被害者の慰藉料としては右金額が相当である。

(三) 葬儀費用(請求額二七三万五〇五〇円) 一一〇万〇〇〇〇円

甲五ないし九号証、一三号証によれば、遺体搬送費として一〇万〇五〇〇円を要したほか、原告は被害者の葬儀を行うために相当額の費用を支出したことが認められるところ、被害者の年齢、生活状況等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用等の損害額は右金額が相当である。

(四) 治療費(請求額一〇九万八九三六円) 一〇九万八九三六円

甲一一号証によれば、本件事故による被害者の治療費として右金額を要したことが認められる。

(五) タイヤ代金(請求額一万六〇〇〇円) 〇円

右1に認定したとおり、被害者は本件事故の約一か月前に、一万六〇〇〇円の代金を支出して被害車両のタイヤ交換をしているが、右タイヤがどのような損害を受けたのかについて、原告の主張は具体的でないうえ、本件全証拠によるも、本件事故により右タイヤが破損を受けたかどうかは明らかでなく、仮に損傷を受けたとしても、消耗品であるタイヤの損害を明らかにする証拠もなく、加えて、原告は被害車両の車両損害自体を訴訟外で被告杉原に請求中であることは原告の自認するところであり、車両損害とは別にタイヤの損害を評価することは困難であり、結局、これを認めるに足りる証拠はないといわざるをえない。そうすると、タイヤ代金を本件事故と因果関係のある損害と認めることはできない。

三  損害の填補等

1  原告が、被害者に生じた損害の填補として、二五八七万四〇八六円の支払を受けていることは当事者間に争いがない。

2  そうすると、原告の損害賠償請求については、右二2の合計額三三九四万六六六五円から右既払額を控除した八〇七万二五七九円の請求権があることとなる。

四  弁護士費用(請求額四〇〇万円) 七一万〇〇〇〇円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、右金額と認めるのが相当である。

五  以上のとおりであるから、被告らに対する原告の請求は八七八万二五七九円及びこれに対する不法行為の日である平成一〇年一一月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判官 野田弘明)

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